帝政ロシアンボンバ(賢者のプロペラ)

 

いたるところでピョートルはノートをとる。製紙工場では、紙をすく機械の前に立ち、この微妙な作業に、玄人顔負けの腕前を見せる。

市庁舎を訪れ、劇場に赴き、バレー「アルミッドの魅力」、喜劇「偽弁護士」を見物する。

今では友人になった市長のウィッツエンに、東インド会社の大造船工場に入りたいがなんとかしてもらえぬか、と頼み込む。依頼の件はすぐに許可された。

ライス教授の解剖学の講義を聴講する。そして、遺体安置所に置かれた子供の死体が見るからにかわいらしいと言って、夢中で接吻する。さらに本物の人体解剖を見学するために、彼はロシア貴族を連れて有名なブールハーヴェの解剖教室「テアトルム・アナトミク」にまで出かけるのである。命なき肉体が解剖に付されその動脈が現われると、ピョートルは人の体の神秘に胸を撃たれ、深く歓喜を覚える。だが、貴族たちの中には彼と同じ情熱を抱しからぬ人物が二人いて、ピョートルはこの二人の不真面目な貴族に、罰として死体の筋肉を口いっぱいに頬張ることを命じたという。

骨の構造、静脈と動脈の循環器、主な内蔵の機能、体液の流れ方、こうしたものについて彼はすべてを知りたがっていた。ある時は、まったく素人の彼が大胆不敵にも外科手術に参加して、さらに手術道具一式を買い込むと、これをどこにでも携え、またある時は、町の広場で歯抜きが行われるのを見物し、この技術も習得しようと突然に思い立ち、初歩的な知識を覚えこみ、さらなる必要な道具を買い込んだ。さてそれからはお供の250人が気になって仕方がない。

ついに全員を患者とみなし、厳しく歯の検査をおこなった。

虫歯の疑いありと彼が判断すれば、ただちに引き抜くのである。犠牲者のうめき声に彼はたじろうどころか奮い立つ。怪力の持ち主であるから、この作業には向いている。調子に乗り過ぎて、歯茎まで引きはがしてしまうことも珍しくはない。ツァーリが自ら腕をふるまわれるわけだから誰一人文句は言えない。いやツァーリに歯を抜いていただいたことを身に余る光栄と考える者もあった。そのおかげで昇進できるかもしれない。ツァーリの友人になれるかもしれないからだ。

 

 

アンリ・トロワイヤ著「大帝ピョートル」より引用

 

 




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